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再見!アラーキー(8) 顔

荒木ほど人間の「顔」に関心を持っている写真家はいないだろう。 「顔に人生が出る」という信念の下、一般人/有名人の区別なく老若男女を撮りまくってきた。 荒木と対峙する人は取り繕うことを許されない。 結果、真実味のある生々しい顔面が出来上がるのだ。

日本人ノ顔

<日本人ノ顔>は荒木が日本中を回り現地人の顔写真を撮るプロジェクト。 2002年に始まり、これまで 大阪、福岡、鹿児島、石川、青森、佐賀、広島の1府6県で実施されてきた。

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<日本人ノ顔>の根底にあるのは、「今の日本の姿はそこに生きる人々の顔に現れている」という荒木の信条だ。

ある時期、案外アタシは外国へ行くことが多かったのよ。でも、外国へ行ったって遊んでばっかりで外国の写真を撮ってこないの。だから、日本を撮らなくちゃ、日本を撮ろう!なんて反省してたんですよ。一丁前に外国に行ったりすると、日本を大切にしなくっちゃなんてむかしの人なんか思ったりするじゃない。それに倣ってっていうんじゃないけど、なんとなくそういう気分になってたのよ、そのころアタシもさ。でも、そうかといって桂離宮を撮るわけじゃないんだよ。歌舞伎を撮るとか京都を撮るとか、そういうんじゃないの。
いまの日本人の顔を撮れば日本が出るだろう、そんなこと思ってたところに、「日本人の顔を撮りましょうよ」っていうヤツが現れるわけよ。合うんだよ、思いが。そういう人間の巡り合わせがあると、いろいろうまくいくんだねぇ。コラボレーションっていうか、コンビになってくれる人がいないと、文化とかゲージュツは駄目、うまくいかないのよ。

<日本人ノ顔>の撮影はとてもハードだ。 一人にかけられる時間が5~10分程度でも、相手を関係を築き上げる撮り方に気を配った。

これは「日本人ノ顔」ってね、アタシの好みの顔とか何とかを撮るんじゃなくて、とにかく来たものをみんな無差別に撮るっていう方法なの。

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それで、この「日本人ノ顔」の撮り方だけど、アサヒペンタックス6×7に三脚つけて、フィルムは二本。一〇カット、一〇カットで合計二〇カット撮るわけ、だいたい。最初の、フィルム1本目のときは、向こうからやってきた元気ない顔とか、ふてくされた顔とかをそのまんま、向こうからきたまんまの"顔"を、複写するように撮るの。それで、次の一本は、アタシが何かバカなこと言ってね、笑わせたりとか何とかして、すっごく楽しい、相手のプラスの面を引っ張り出す。幸せの部分を引っ張り出すっていうような撮り方をする。この二通りをやってるわけ。

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でね、大変なんだよ。一日一〇〇人くらい撮るんだから。それを二日戦とか三日連続でやって、三回戦くらい、やるじゃん。で、もーのすごく大変なの。で、全国みんなやっちゃおうと思ってっから、相当生きなくちゃいけない、これから。

最初は個人の肖像写真が主だったが、時代に家族の集合写真が増えてくる。 笑顔で身を寄せ合う家族のこそ、荒木が求めてきた「幸福写真」だ。

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で、そこでいろんな人に出会って、いろいろ"時”を持って撮ってるっていうようなことやってると、向こう側から、結婚式の写真がないんで二人で撮ってくださいとかってね、来たりすんだよ。で、俺に似合わずいい子だって娘連れてきたりとかさ、家族で撮ってくれって向こうから来るんです。そうすっとね、い~んだねぇ、その顔が。

母子像

<母子像>は熊本市民の母子のヌード写真である。 熊本市現代美術館で荒木の個展を行うにあたって撮り下ろされたもので、被写体となった母子に捧げる新作<色淫花>も同時に発表された。 先方からは熊本という土地柄を活かした企画にしたいという要望があり、熊本市民の母子という条件でモデルを公募した。

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ヌードというのは見る方も見られる方も気恥ずかしいところがあるが、<母子像>はそういうものを超越したエネルギーがある。 生きる歓び、母の愛情、生まれてきてくれたことへの感謝、子どもが背負う未来…。 笑顔の母と抱きかかえられる赤ん坊というストレートな画だからこそ、いっそう「情」を感じるのだ。

撮影に際してモデルとなった母たちから寄せられたコメントには、「出産で体型がくずれてしまい1、裸になるのは恥ずかしかった」という話が多く見受けられたが、写真の中ではそんな迷いを感じさせない素敵な笑顔を見せている。 出産や子育てを経験したことが自信や誇りにつながっているのだろう。

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ふくふくとした赤ちゃんは実に可愛らしい。 表情も体勢もいろいろで、泣きそうな子もいれば泣き出す子もいるし、力強く前を見据える"大物"もいる。

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<母子像>の撮影には全39組が参加した。 各組5分程度のクイックな撮影となったが、さすがは荒木、相手の魅力をしっかりと引き出している。 撮影時のやりとちがユーモラスでファンとしては興味深い。

  • 2ヶ月?そうかあ、か~わいいねえ。座ってないから立って撮ろう、なんてね。へ~い!はあ~い!いい娘だよ。あ、いいねえ、いいぞいいぞいいぞ。お母さんのおっぱいが見えるほうがいいね。元気じゃ~ん、元気じゃん!ほんとにお尻青いんだねえ!
  • お母さんがマドンナになりましたよ。はいグウ!いいです!
  • いいっ!オッス!大物だね。
  • やっほ~!いいんだよね、はるか未来をみてるところ。

初期の仕事

キャリアの最初期から、荒木は顔に対する関心を持ち続けている。 電通時代に制作していたスクラップブックをまとめた『月光写真』2を読むと、見事に顔ばかり撮っていて、荒木の興味の持ちようは変わらないのだとわかる。 ここでは初期の仕事を荒木の解説とともに紹介する。

中年女

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まあ、昼ごろから行ってねえ、二次ぐらいまでが一番いいんだけど、銀座に出てくるこういう中年女ね。この迫力がすごい。 [......] それと、これはねえ、ナンパしたり拉致したりして撮ったんじゃないんだよ。これはスナップして、それをだね、プリントして、中年女の型だけ切り抜いて、切り抜いたのを白い紙に貼って、複写してるの。

女囚

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そのころはOL(オフィスレディ)と言わないでBG(ビジネスガール)って言ってたんだけど、要するに、彼女たちはもう、あれなのよ、囚人なのよ。で、牢屋が丸ビルだっていうことね。当時はね、事務服と称する制服があって、紺色の制服を着てたの。その制服を着たBGたちが昼休みになると、だらだらだらだら会社の中から散歩に出てくるわけ。これが、まるで囚人みたいで、アタシは「君たちは女因である」っていうことで、当時BG憧れの職場であった丸ビルという牢獄に閉じ込めたっていう写真なのよ。これは大変思想性があるっていうか、社会性があるっつうか、そういう写真なのよ。ハハハハ。銀座ブラブラしてる女のコを撮って、それを、丸ビルの窓にはめ込んだの、ダーッて。これはね、いまも好きだね。傑作だよ。

お面

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これはね、子どもたちに何でもいいからお面を作れって言って作らせて撮ったの。自分に似てもいいし、他人の顔でもいいし、鬼でもいいし、勝手に好きなモノ作んなさいって言って作ってもらって、それをかぶせて、撮って。やっぱり顔にすっごく興味があるんだよね。顔に、人生がみんな出ちゃうっていうことね。肉体のシワっつうかさ、そういうシワも、顔に出るわけですよ。

子どもの国

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このころだね、子どもの日に、「こどもの国」3に行って子ども撮ったっていうことだね。とにかく顔ばっかり、アレなんだよね。そのころから顔ばっかり撮ってんのね。

動物園

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これはね、こっちにカバがいるんだけど、カバにカメラ渡して撮らせたの、この写真は(笑)。これ、「動物園」っていう作品だけどね。ね、人間、んんん、動物いいだろ?ね?カバから見ると「あいつら入ってるの、オリの中に」ということ。檻に入ってんのが人間でしょ。人間のほうが動物だっていうこと。

地下鉄

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電通のときは三ノ輪から通ってたんだけど、(地下鉄の)銀座線で、向かいに座った人の顔を二メートルちょっとぐらいの距離で撮れるところがあったんだよね。行き帰りその車両に乗って、顔を撮ってた。これこそ人生の縮図だし、みんな時代の囚人だとかいって。
乗ってから二駅くらいで、みんな自分の世界にぽーんと入るんだ。最初は中吊り見たり、前の女見たりしているわけ。それがひとりぼっちになるんだよ。「そこだっ」てシャッター押す。

『男 アラーキーの裸ノ顔』は若手から大御所まで総勢200名の男性芸能人を写したモノクロ・ポートレイト集。 大型本で迫力があるのがポイント。 むんむんとした男の色気を直に浴びられる(笑)。

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原則として一人一写真なのだが、一人だけ2枚収められている。 それが北野武。 う~~~ん、カッコイイ。 荒木曰く「年とった後の方がイイ顔してる」。

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有名人を集めた『男』に対して、一般人男性(おじさん)をユーモラスに写したのが『男の顔面』だ。 日本社会を支える名もなきサラリーマンたちに焦点を当てている。

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ライカ片手に街頭に立ち、「男の顔を撮っています」とアタックを繰り返した。 これほど慌ただしい撮り方は荒木としても初めてだったという。 写真だけでなく、その下に記載されたインタビューへの回答がいい味を出している。

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著名人のポートレイト

荒木が手がけるポートレイトは、いつもその人の本質に肉迫している。 これは荒木が人の核となる部分を見抜く"目"を持っていることを示している。 ここでは著名人のポートレイトをいくつかあげながら、荒木の比類なき"目力"を探ってみたい。

草間彌生

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草間の作品に男根状の突起で埋め尽くされたソフト・スカルプチュアがあるが、それらを制作する動機は草間自身の男根フォビアにあると解釈されている。 このポートレイトは男根恐怖症という草間の本質をこれ以上ないほどよく表している。

村上春樹

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『職業としての小説家』の表紙に使われた写真。 彼のtesticularityが感じられる。

樹木希林

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老婆なのに茶目っ気がある感じが素敵だ。 荒木との出会いは演出家・久世光彦の葬儀だった。 供養のために合わせられた手の美しさに思わずシャッターを押してしまったという。

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笠智衆

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小津映画でおなじみの名俳優。 亡くなる少し前にライカで撮影した。 最後のポートレイトという意味では「さようなら」の写真であるが、「こんにちは」と言っているような朗らかさもある。

鈴木いづみ

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自殺した女流作家。 荒木とは知己の仲だった。 このポートレイトは本人も気に入っていて、部屋に飾っていたそうだ。

岡崎京子

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『ヘルタースケルター』『リバース・エッジ』等の怪作を生み出した女性漫画家。筆者が私淑しているので載せてみた。

ロバート・フランク

荒木とは親交があり、"for ARAKI NUMBER ONE from ROBERT"4と書いたTシャツをプレゼントしたことがある。 荒木もフランクのためだけに作った写真集『クルマド』5を捧げている。

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ビョーク

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荒木の写真に惚れ込み、来日時に撮影を依頼した。 荒木はビョークの表情を「少女のようでもあり、老婆のようでもある」と評した。 ビョークも荒木に手紙と詩を贈っており、その中で荒木を「愛のテロリスト」と呼んでいる(言いえて妙!)。

レディー・ガガ

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ガガも荒木のファンで、彼女自らオファーを出したという。

関連項目

ソース

  • 荒木経惟『荒木経惟写真全集 第1巻 顔写』平凡社 1996
  • 荒木経惟『男の顔面』文藝春秋 1999
  • 荒木経惟『ARAKI by ARAKI』講談社インターナショナル 2003
  • 荒木経惟『熊本ララバイ』熊本市現代美術館 2008
  • 荒木経惟『男 アラーキーの裸ノ顔』角川書店 2015
  • http://j-face.info/

  1. 妊娠線、帝王切開跡、産後太りなど。 

  2. 『月光写真』は1964~71年の間荒木が個人的に制作していた写真帖を収録している。 画材屋「月光荘」のスケッチブックにプリントを貼りつけたもので、レイアウトも荒木自身が考案した。 全26冊が倉庫で発見され、荒木の原点にあたる作品集として近年出版される運びとなった。 『センチメンタルな旅』よりも前、『さっちん』で第1回太陽賞を受賞してから電通を退社してフリーになるまで——この期間の荒木の仕事を知ることができる『月光写真』は、荒木ファン必読の写真集だ。 

  3. 横浜市青葉区と東京都町田市にまたがる、子どものための広大な遊び場。 

  4. フランクは来日中、プロ野球選手の荒木大輔をTVごしに撮っている。 この時荒木大輔の背番号が"11"だったことから着想を得て、荒木経惟を"No.1"と賞した。 

  5. 走行する車の窓越しに東京の雑踏や風景を撮るシリーズ。 


最終更新日: 2024-07-17